東洋医学(鍼灸医学)1

鍼灸医学の真価

東洋医学とりわけ鍼灸医学は、経験医学として発達して、三千年の長きに渡って多数の経験の集積から出来上がったものだけにその臨床価値は極めて高く評価されるべきものです。生成発展の史的過程において、当時の自然科学による説明が混入しているために、現代人からは容易に納得しがたいような要素も少なくありません。これは経験的事実をどうにか説明しようと試みた結果ではなかろうかと思いますが、化学以前の不純な要素を振り払ってそこにそんざいする経験的事実を拾い上げるならば、直ちに臨床に役立つ要素が多分にあるのです。

鍼灸医学は明治初期以来、西洋医学の輸入とともに古い医学として、何らの科学的検討も加えられずに取るに足らずと軽蔑され、医学の領域から全く排除されて民間療法としてのみ細々と約一世紀の間存続してきました。

明治初期から大正・昭和にかけて鍼灸の科学的研究が一部の医学者の関心事となる一方鍼灸家による臨床研究も盛んになりました。両社が相まって鍼灸医学の真価を一般知識人の間に高く評価される傾向が生み出されてきました。

しかし日本の医学界においては評価されないまま時代が経過していきました。

日本の医学界が軽視している間にフランス、ドイツ、中国、ソ連、アメリカでは鍼灸医学の科学的検証が積極的に行われて多くの論文が発表されてきた。だがまだまだ解明されていない事象が多く科学の進歩が期待されます。

鍼灸治療と現代医療を比較するのではなく、おのおのの長所を認め補填することにより、より良い治療が行われる事を願います。

慢性病と鍼灸医学

西洋医学は急性病や伝染病において優れた実績をあげています。鍼灸医学は慢性化した症状に対応する能力があります。西洋医学の急速な進歩によって死亡率が減少し平均寿命が急速に延長されました。これは真に喜ばしい事ですが、慢性病患者が減ったかというとそうではないようです。慢性病は長期間の経過をたどり、慢性病の増加と老齢人口の増加は個人的にも、集団的にも大きな負担となってきました。慢性疾患とそれに伴う不能力化の程度は、40歳以後に著名に増加し老年に近ずくほど比率は高くなる。

慢性病の多くは退行性疾患でありしたがって進行的であり徐々に機能低下を来して人を不能化します。慢性病の定義は「長期間にわたる健康障害」を意味する。たとえ患者がそれに気づいていなくてもまた、その不能力化が著明でなくても、健康障害が着々と進行していく場合にはこれを慢性病という事ができる。こうした意味の慢性病には、近代医学があまり深い関心を持たなかったものです。

これを鍼灸医学に限定していうならば、その診断は治療に即した病証の診断であって、脈診・経絡診・経穴診・腹診・背診をはじめ望診による全体的な診断、陰陽虚実による病状病勢の診断、その治療的診断において実に卓越したものを持っています。従来東洋医学の古典においては「未病を治する」を上工(名医)とし、「既病を治する」を下工(凡医)とみなしていました。したがって疾病の治療よりも健康障害の整復、すなわち養生に重きを置いてきました。病気の治療は病気を対象として治療するのではなく、身体のくるいを整えるのです。身体のくるいを整えていれば病はひとりで治っていくと言われています。

人は慢性病の脅威を身近に感じる時代になってきて、東洋医学の特色が発揮されることの必要な時代が来たようです。

東洋医学とりわけ鍼灸医学は、慢性病の診断と治療に優れています。神経痛、関節リュウマチ、慢性関節炎、慢性胃腸疾患、喘息、神経症、神経衰弱、更年期障害、肩こり、腰痛、慢性疲労、動脈硬化症、高血圧症、脳出血後遺症、糖尿病などの慢性疾患には鍼灸治療の適応するものが極めて多く、早期に発見し治療して正常な健康状態に復帰させることができる場合が少なくありません。